殺人罪の中止犯とは?~北九州市小倉南区
殺人罪と中止犯について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
北九州市小倉南区に住むAさんは、自分の娘であるVさん(5歳)の首をひもで締めて殺そうとしましたが、Vさんが泣き出したことでかわいそうだという気持ちになり、首を絞めるのをやめたことでVさんは死亡するに至りませんでした。とんでもないことをしてしまったと思ったAさんは自ら警察に通報したため、Aさんは福岡県小倉南警察署に殺人未遂罪の疑いで逮捕されました。
Aさんの両親から依頼を受けてAさんと接見した弁護士は、殺人罪の中止犯が成立するとみています。
(事実を基にしたフィクションです。)
~ 中止犯とは ~
中止犯と聞くと、なんだか殺人罪のとは別の犯罪が成立して刑が重たくなるのではないか、と思われそうですが、実はそうではありません。
殺人罪における中止犯とは、
犯罪の実行に着手したものの、人の死という結果が発生せず、かつ、結果が発生しなかった原因が自らの意思で犯行を中止したと認められること
をいい、中止犯が成立すると
必要的に刑が減軽されます。つまり、殺人罪の法定刑の
死刑又は無期若しくは5年以上の懲役
が
死刑→無期の懲役若しくは禁錮又は10年以上の懲役若しくは禁錮
無期→7年以上の有期の懲役又は禁錮
5年以上の懲役→2年6月以上の懲役(上限懲役10年)
と減軽され、この範囲で量刑が決められます。
中止犯の根拠は刑法43条後段に求められます。
刑法43条
犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
~ 殺人罪の実行に着手したこと ~
中止犯が成立するには、まず、犯罪の実行に着手したこと、が必要です。
犯罪の実行にすら着手していない場合は、罪に問われないか、あるいは殺人予備罪(刑法201条、2年以下の懲役)に問われるにとどまります。
殺人罪の実行に着手したといえるためには、死亡結果を生じさせる危険のある行為を開始している必要があります。
典型的な例としては、刃物で相手の心臓付近を突き刺す行為や、けん銃を相手に向けて引き金を引く行為などが考えられます。
また、極めて限定的な事例ではありますが、裁判例の中には、クロロホルムを吸引させて被害者を昏倒させ、自動車に乗せたうえで、自動車事岸壁から海中に転落させて沈めて溺死させるという計画を立ててこれを実行したという事案で、クロロホルムを吸引させた時点で殺人罪の実行に着手したと認めたものがあります。
~ 結果が発生しなかったこと ~
次に、人の死という結果が発生しなかったことが必要です。
これには、①そもそも結果が発生しなかった場合と、②死亡結果と原因行為との間に因果関係が認められない場合とが考えられます。
因果関係が認められない場合としては、例えば、実行行為者の行為とは全く無関係のところから死亡結果が生じている場合や、死亡結果のそもそもの原因を特定できない場合などがあります。
因果関係が認められるか否かの判断は、実行行為の危険の大小や、介在事情の異常性など様々な事情を考慮して行われますが、この判断は非常に困難です。
~ 結果が発生しなかった原因が自らの意思で犯行を中止したと認められること ~
ここで大切なのは、①「自己の意思により」、②「犯罪を中止した」といえるか否かです。
ただし、①はあくまで内面の事情ですから、その判断も非常に困難です。
学説としては、
犯人が自己の行為を後悔してやめた場合を中止未遂、それ以外の事由によってやめた場合を障害未遂
という主観説と、
犯人が社会一般の通念に照らして、犯罪の遂行を断念させるような事情又は表象がないにもかかわらずやめたときに中止未遂、そのような犯罪の遂行に障害となるような事情又は表象によってやめたときは障害未遂
とする客観説がありますが、判例はこの客観説に立っているものと思われます。
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