未成年者に対する誘拐罪
誘拐罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。
福岡県福津市に住むAさんは、SNS上で家出先を探していた中学生Vさん(14歳・女性)に、「困っているなら僕の家に家出しておいでよ。」などというメッセージを送り、、自宅にVさんを誘い出し、数日間自宅にVさんを住まわせたとして、福岡県宗像署に未成年者誘拐罪で逮捕されました。Vさんの両親がVさんの行方を心配して宗像警察署に相談。宗像警察署が捜査していたところ、VさんがAさん宅に泊まっていることが判明したそうです。Aさんは、示談して不起訴処分を獲得したいと考えています。
(事実を基にしたフィクションです。)
~ 未成年者誘拐罪 ~
本罪は刑法224条に規定されています。
刑法224条
未成年者を略取し、誘拐した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。
「未成年者」とは20歳未満の者をいいます。
「略取」とは、略取された者の意思に反する方法、すなわち暴行、脅迫を手段とする場合や、誘惑に当たらない場合でしかも相手方の真意に反する方法を手段として、未成年者を自分や第三者の支配下に置くこと、「誘拐」とは、欺罔(騙すこと)や誘惑を手段として、他人を自分や第三者の支配下に置くことをいいます。「誘拐」と「略取」とをあわせて「拐取」ということもあります。
Aさんが「困っているなら僕の家に家出しておいでよ。」などというメッセージを送り、自宅にVさんを住まわせる行為は「誘拐」に当たるでしょう。
VさんがAさん宅へ行くこと、Aさん宅に泊まることに同意していたとしても本罪の成否には何ら関係がありません。つまり、本罪は成立します。
これは、本罪が守ろうとしているのが未成年者の自由だけでなく、親権者の保護監督権も含まれからです。したがって、親権者が同意していない以上、本罪は成立します。
なお、本罪は告訴がなければ起訴されない親告罪です。
* 深夜連れ出し等の罪 *
未成年者誘拐罪と似ている罪として福岡県青少年健全育成条例で規定される深夜連れ出し等の罪(20万円以の罰金又は科料)があります。
ただし、対象者が青少年(18歳未満の者)であること(未成年者は20歳未満の者)、時間が限定的であること(「深夜」とは午後11時から翌日の午前4時まで)などが異なります。
~ わいせつ目的等誘拐罪 ~
本罪は刑法225条に規定されています。
刑法225条
営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、1年以上10年以下の懲役に処する。
Aさんのように、SNSで家出中の外出先を探している未成年を自宅に呼び込み、強制わいせつ罪(刑法176条、6月以上10年以下の懲役)、強制性交等罪(5年以上の有期懲役)などの性犯罪に当たり得る行為をするというケースも散見されます。仮に、そのような行為が疑われた場合は、未成年者誘拐罪ではなく本罪が適用される可能性があります。
なお、本罪は未成年者誘拐罪と異なり親告罪ではありません。
~ 身代金目的誘拐罪 ~
本罪は刑法225条の2第1項に規定されています。
刑法225条の2第1項
近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に応じてその財物を交付させる目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、無期又は3年以上の懲役に処する。
「近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者」とは、被拐取者との間に密接な人間関係があるため、被拐取者の安否を親身になって憂慮する者のことで、「近親者」、すなわち、親子、夫婦、兄弟、祖父母といった近い関係に当たる者のみならず、里親、住み込み店員に対する店主のように事実上の保護関係にあるものも含まれます。
本罪は、無期懲役刑が規定される非常に重たい罪ですが、近年の通信技術(逆探知技術、防犯ビデオカメラの映像精度)の向上などによって警察に検挙される件数は少なくなってきていると言われています。つまり、犯人からすると「割に合わない罪」となっているようです。
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