強制性交等未遂罪が暴行罪?
Aさんは,知人女性Vさん方で,Vさんに対し,殴る,蹴るの暴行を加えた上,床に押し倒してVさんが履いていたズボンを,Vさんの膝半分まで脱がしました。しかし,ちょうどそのとき,Vさん方近くをサイレンを鳴らしたパトカーが通ったことから,Aさんは「Vさんが110番通報したのではないか」と怖くなり,それ以上,Vさんに危害を加えることを止め,Vさん方を後にしました。Aさんは,後日,福岡県折尾警察署の警察官に強制性交等未遂罪(旧:強姦未遂罪)で逮捕されました。Aさんの家族から接見の依頼を受けた弁護士がAさんと接見したところ,弁護士は,本件では暴行罪が成立するにとどまるのではないかと考えました。
(フィクションです)
~ 強制性交等罪(刑法第177条) ~
刑法177条
13歳以上の者に対し,暴行又は脅迫を用いて性交,肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という)をした者は,強制性交等の罪とし,5年以上の有期懲役い処する。13歳未満の者に対し,性交等をした者も,同様とする。
= 13歳以上の者とは =
改正前の刑法177条は
13歳以上の「女子」を姦淫した者は
と規定されていました。しかし,改正後は13歳以上の「者」と改められ,男子も保護の対象となりました。したがって,女子による男子への,男子による男子への性交等も処罰の対象となります。
= 暴行・脅迫とは =
一般に,暴行とは,人の身体に対する有形力の行使,脅迫とは,人を畏怖させるに足りる害悪の告知のことをいいます。ただし,同じ暴行や脅迫と言っても,罪名により犯罪成立に必要とされる暴行,脅迫の「程度」が異なります。
例えば,強盗罪(刑法236条)の場合は,
相手方(被害者)の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫
が必要とされているのに対し,強制性交等罪の場合は,必ずしもそこまで必要とせず,
相手方(被害者)の反抗を著しく困難しらしめる程度の暴行・脅迫
で足りるとされています。
ただ,実際の事件では,相手方(被害者)の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫が加えられることが多いと言われており,この場合でも強制性交等罪に問われることになります。
= 性交等とは =
規定にも記載されているとおり,性交の他に,肛門性交,口腔性交も含まれます。ただし,手淫,口淫などの性交類似行為は含まれません。
~ 強制性交等未遂罪(刑法第180条・177条) ~
刑法180条
第176条から前条までの罪の未遂は,罰する。
刑法では,未遂罪を罰する場合は,新たにその旨規定を設けるとしており(刑法44条),強制性交等罪の未遂規定がこの刑法180条になります。
= 未遂罪とは =
さらに,刑法43条では,未遂罪が成立する場合を以下のように規定しています。
刑法43条
犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は,その刑を減軽することができる。ただし,自己の意思により犯罪を中止したときは,その刑を減軽し,又は免除する。
すなわち,未遂罪が成立するには
・犯罪の実行に着手したこと(実行の着手)
・犯罪が既遂に至らなかったこと(犯罪の不成立)
が必要となるのです。
また,刑法43条前段は障害未遂と呼ばれ,任意的に(裁判官の裁量で)刑が減軽されるのに対し,後段は中止未遂と呼ばれ,必要的に刑が減軽されます。
= 強制性交等罪の未遂罪とは =
上記の未遂罪の成立要件からすると,強制性交等罪の未遂罪が成立するには
・相手方に対し,暴行・脅迫を加えたこと(実行の着手)
・性交等に至らなかったこと(犯罪の不成立)
が必要となるのです。男子の女子に対する性交についていえば,男子の陰茎を女子の膣内に挿入すること(必ずしも射精は要しない)により既遂に達すると解せられていますが,暴行・脅迫を加えたものの,何らかの事情により,陰茎を膣内に挿入できなかったという場合に強制性交等罪の未遂罪が成立することになります。
~ なぜ,強制性交等罪が暴行罪? ~
他方で,外形的事実(客観的事実)だけ見れば,Aさんの行為は暴行罪にしか当たらないようにも思えます。では,強制性交等罪の未遂罪と暴行罪を区別する基準はどこにあるのでしょうか?それは,
Aさんが,Vさんに暴行・脅迫を加える時点で,Vさんに対する性交等の意図があった否か
によるものと考えられます。そのような意図があったか否かはAさんの内心の問題ですから,そのような意図があったか否かは,犯行時のAさんの言動や行為態様,犯行動機,犯行に至るまでの経緯,犯行後の状況などから判断されます。Aさんが,Vさんに「させろや!」などと言いながら暴行を加えていた場合は強制性交等罪の未遂罪が成立しやすくなりますし,Vさんに恨みつらみがあって暴行を加えたというような場合は暴行罪が成立するに留まることも考えられます。
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