【事例解説】ひき逃げとその弁護活動(自転車で走行中の被害者に車でぶつかり怪我を負わせ、その場から逃走したケース)

【事例解説】ひき逃げとその弁護活動(自転車で走行中の被害者に車でぶつかり怪我を負わせ、その場から逃走したケース)

今回は、自転車を運転していた被害者に車でぶつかったにもかかわらず、その場から逃走したという架空の事例に基づいて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説致します。

事例:自転車で走行中の被害者に車でぶつかり怪我を負わせ、その場から逃走したケース

福岡市城南区の交差点で、自転車に乗って交差点を横断していたVさんに誤って車でぶつかり、怪我を負わせたにもかかわらずその場から逃走したとして、福岡市南区在住の会社員Aさんが逮捕されました。
Vさんは、加療約10日の怪我を負いました。
福岡県警察城南警察署は、事件当時、近くを走っていた別の車のドライブレコーダーの映像を解析するなどした結果、Aさんの犯行と特定しました。
警察の調べに対して、Aさんは容疑を認めたうえで「怖くなって逃げてしまった」などと供述しているとのことです。
(事例はフィクションです。)

本件の事例において、Aさんには、Vさんに誤って車でぶつかり怪我を負わせたことにつき過失運転致傷罪が、事故を起こしたにもかかわらずVさんの救護をすることなく逃走し、警察に報告しなかったことにつき救護義務違反報告義務違反が成立することが考えられます。
以下、それぞれについて検討・解説致します。

1,過失運転致傷罪について

〈過失運転致傷罪〉

自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(以下「自動車運転処罰法」と言います。)5条

過失運転致傷罪は、自動車の運転に必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合に成立します。
なお、運転者の過失運転により被害者に発生した傷害の結果が軽いものであるときは、情状により、その刑が免除される可能性があります。
自動車の運転上必要な注意」とは、自動車の運転を行う上で必要とされる注意を言い、「自動車」には、車だけでなく原動機付自転車(原付)も含まれます。

2,救護義務違反・報告義務違反について

〈救護義務〉

交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。道路交通法72条1項前段

〈救護義務違反の罰則〉

車両等(軽車両を除く。以下この項において同じ。)の運転者が、当該車両等の交通による人の死傷があつた場合において、第72条(交通事故の場合の措置)第1項前段の規定に違反したときは、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。道路交通法117条1項

前項の場合において、同項の人の死傷が当該運転者の運転に起因するものであるときは、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。道路交通法117条2項

交通事故があった場合は、事故を起こした車両等の運転者その他の乗務員には、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する義務を負います。
救護義務に違反した場合、違反者には、5年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。
また、死傷の原因が運転者の運転に起因するものである場合には、その運転者に対しては、10年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されることになります。

〈報告義務〉

この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。同項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置(第75条の23第1項及び第3項において「交通事故発生日時等」という。)を報告しなければならない。道路交通法72条1項後段

〈報告義務違反の罰則〉

次の各号のいずれかに該当する者は、3月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処する。道路交通法119条1項柱書
第72条(交通事故の場合の措置)第1項後段に規定する報告をしなかった者同項17号

事故を起こした場合に、車両等の運転者は、警察に対して事故が発生した日時及び場所等を報告する義務を負い、この義務に違反した場合は、3か月以下の懲役または5万円以下の罰金が科されることになります。
救護義務とは、交通事故が発生した場合に、その車両の運転者等は、救急車を呼ぶなど当該事故の負傷者を救護する義務をいいます。
救護義務違反は、もし事故を起こした車両の運転者等が、たとえば負傷者の存在を認識していたがその場から立ち去ったなど、負傷者を救護する義務を果たさなかった場合に成立します。
報告義務とは、交通事故が発生した場合に、車両の運転者等は、当該事故が発生したことを警察官若しくは警察署に対して報告する義務をいいます。
報告義務違反は、この報告をすることなく、当該事故を起こした車両の運転者等がその場から立ち去った場合に成立します。
上記の事例では、AさんはVさんにぶつかり怪我を負わせましたが、運転していた車を停止してVさんを救護することなく、また、事故が発生したことも警察に報告することもなくその場から逃走しています。
そのため、Aさんには、救護義務違反報告義務違反が成立することが考えられ、両者は観念的競合となります(刑法54条1項前段)。

3,ひき逃げ事案における弁護活動

(1)ひき逃げの加害者が負う責任

過失運転致傷罪が成立する場合には、刑事上の責任のみならず、民事上、行政上の責任を負うことになります。
刑事上の責任として、7年以下の懲役若しくは禁錮、または100万円以下の罰金が科されます。
民事上の責任として、過失運転致傷の加害者は、被害者から不法行為責任民法709条)を追及され、被害者が負った怪我に対する治療費、通院にかかった交通費や傷害を受けたことによる精神的苦痛に対する慰謝料等の肉体的・精神的損害を金銭的に評価し、その金額の賠償を請求されることになります。
さらに、行政上の責任として、過失運転致傷の加害者には、当事者の過失や被害者の被害の程度などを考慮した上で点数が付与され、免許の停止や取り消しなどの処分が科されることになります。
もっとも、違反点数が累積15点以上の場合に免許取り消しの処分が下されるところ、上記の事例のように、加害者に過失運転致傷罪が成立するだけでなく、救護義務違反も成立する場合、救護義務違反の違反点数は35点であるため、加害者は、たとえ過去に一度も違反歴が無いとしても免許取り消しとなります。

(2)示談

ひき逃げ事案の場合、被害者が存在します。
そのため、被害者との示談交渉を試みます。
示談交渉は、当事者同士でも行えますが、当事者同士での交渉は拗れて上手くいかない可能性があります。
しかし、弁護士が間に入ることで、被害者の方に安心していただき、冷静かつ丁寧に加害者が反省・謝罪の意思があり、被害弁償をする準備があることを伝えることで、示談の成立を目指します。
もっとも、ただ謝罪・反省の意思を述べて被害弁償をするだけでなく、宥恕条項(加害者の謝罪を受け入れて加害者に対する刑事処罰を望まないことを意味する条項)や刑事告訴の取消などの約定を加えた内容での示談を成立させることが肝要となります。

(3)情状弁護

前述の通り、救護義務違反の違反点数は35点であるため、仮に被疑者に違反歴がないとしても、一発で免許取り消しとなります。
そのため、交通事故事案の場合、車を売却することを検討し、それに伴う生活環境の変化も調整していくことも考慮する必要があります。
例えば、被疑者が車で通勤している場合には、家族等に代わりに運転してもらうなどの代替手段を模索していくことが考えられます。
そのような調整活動の内容を証拠化し、被疑者に再犯可能性が無いことを示す証拠として、検察官や裁判所に提出し、被疑者・被告人にとって少しでも有利な結果の実現を目指します。
また、被害者の怪我がそれほど重大ではないなど事案が軽微である場合や被疑者が罪を認めて反省している場合には、略式起訴されて罰金刑が科されることで事件が終了することが考えられますが、公判請求されて正式裁判になる(起訴される)可能性もあります。
その場合に備えて、入念な打ち合わせを行うなどの活動も行います。

4,まずは弁護士に相談を

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部は、刑事事件・少年事件を専門的に取り扱う法律事務所です。
ひき逃げの当事者となり在宅捜査を受けているなど身柄拘束を受けていない方に対しては初回無料でご利用いただける法律相談をご提供しております。
また、家族・親族がひき逃げの当事者となり身柄拘束を受けている方に対しては、初回接見サービス(有料)をご提供しております。
まずはお気軽にフリーダイヤル「0120-631-881」までお電話ください。

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