【過失傷害(刑法209条1項)】
過失により人を傷害した者は、30万円以下の罰金又は科料に処する。
(209条2項)
前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
【過失致死(210条)】
過失により人を死亡させた者は、50万円以下の罰金に処する。
1.自転車事故の責任
自転車で事故を起こした場合には、①刑事責任、②民事責任の2つの責任を負います。
2.刑事責任
(1)根拠法
自転車は、道路交通法第2条第11号により、「軽車両」と定義されています。
自転車によって同じ事故を起こした場合には、自動車運転死傷行為処罰法は適用されません。
自転車の事故により、相手にけがを負わせた場合には過失傷害罪(刑法209条、30万円以下の罰金または科料)、相手を死亡させた場合には過失致死罪(刑法210条、50万円以下の罰金)、過失が重大であった場合には重過失致死傷罪(刑法211条1項後段、5年以下の懲役若しくは禁固又は100万円以下の罰金)が成立する可能性があります。
自転車事故は自動車事故に比して軽く考える人がいらっしゃるかもしれませんが、人を死傷させた場合には、懲役刑を含む重い刑を受ける可能性があります。
(2)主な違反の種類
①酒酔い運転
5年以下の懲役又は100万円以下の罰金(道路交通法117条の2)
自転車事故の場合、酒気帯び運転は処罰されません。
しかし、実務上「警察官から注意します」という内容の誓約書へのサインを求められたり、「組織内で懲戒処分の対象」もありえます。
また、人身事故を起こした場合には過失運転致死傷罪が問題となります。
(酒酔い運転の飲酒の程度)
アルコールの保有量に関わらず、「アルコールの影響で正常な運転ができない状態」(道交法117条の2第1号)
(酒気帯び運転の飲酒の程度)
アルコール濃度が血液1ml中0.3mgまたは呼気1リットル中0.15ml(道交法117条の2の2第3号、道交法施行令44条の3)
②救護義務違反(ひき逃げ)
1年以下の懲役又は10万円以下の罰金(道路交通法117条の5)
③信号無視、通行禁止違反、一時停止違反
3月以下の懲役又は5万円以下の罰金(道路交通法119条)
④無灯火
5万円以下の罰金(道路交通法120条)
⑤歩道通行
2万円以下の罰金又は科料(道路交通法121条)
※但し、「車道又は交通の状況に照らして当該普通自転車の通行の安全を確保するため当該普通自転車が歩道を通行することがやむを得ないと認められるとき」等は歩道を通行できます。
(3)自転車事故での注意点
自転車の場合、軽微な違反であっても、検挙されてしまうと全てが刑事手続きとなってしまいます。
自転車には、自動車やバイクのような行政上の交通反則金制度がありません。
自転車の交通違反の場合、その態様が軽微なものが多く捜査機関側も軽々に立件することは少ないですが、交通違反の態様が悪質である場合や死傷事故などの被害結果が大きい場合には、刑事罰に問われる可能性が出てきます。
刑事処罰の対象となり、罰金や懲役判決を受ければ、自転車での交通違反でも前科が付くことになりますので、大いに注意が必要です。
3.民事責任
民事責任とは、被害者の損害を(金銭にて)賠償する責任をいいます。 事案によっては、数千万円もの賠償金を支払うことにもなりかねません。
※自転車保険
近時、自転車が加害者となる交通事故によって、死者や重篤な後遺障害が生じ、高額な賠償請求事例も発生しています。そこで、各自治体(例えば大阪府、兵庫県等)が自転車保険の加入を条例で義務付けています(但し、罰則はありません)。
~自転車事故における弁護活動~
1 被害弁償や示談交渉
自転車事故を起こしてしまった場合、できるだけ早く被害者に対する被害弁償や示談交渉をすることが重要になります。
早期に被害弁償や示談成立に至った場合、不起訴処分や早期の釈放につながりやすくなります。
2 有利な処分を獲得
起訴猶予による不起訴処分又は略式裁判(罰金を支払うことにより手続きから解放される制度)になるよう弁護活動を行います。
具体的には、違反行為の態様、経緯や動機、回数や頻度などを慎重に検討して、酌むべき事情があれば警察や検察などの捜査機関に対して主張していきます。
また、再犯防止のための具体的な取り組みや環境作りが出来ていることを客観的な証拠に基づいて主張することも重要です。
3 情状弁護
仮に正式裁判になった場合でも、裁判所に対して、上記2のような主張・立証をすることで、減刑又は執行猶予付き判決を目指した弁護活動を行います。
4 身柄拘束解放活動
逮捕・勾留されてしまうのは、証拠隠滅や逃亡のおそれがあるためです。
そこで、弁護士は早期釈放・早期保釈のために証拠隠滅や逃亡のおそれがないことを示す客観的証拠を収集し、社会復帰後の環境を整備するなどして釈放や保釈による身柄解放を目指します。
また、仮に身体拘束(逮捕・勾留)がなされても、前述の示談活動及び取調対応を適切にとることで解放されやすくなります。
弁護士による適切なアドバイスを受けることにより、身体拘束解放に向けて大きく前進することができます。
5 無実の主張
実際には自転車事故を起こしていないにもかかわらず、容疑をかけられ捜査されることもあります。
そのような場合は、弁護士を通じて真犯人の存在を示す証拠や事故を起こしていないアリバイを示す証拠を捜査機関や裁判所に提出して無実であることを強く主張します。
また、重過失致死傷罪や過失致死傷罪などが問題となる場合、加害者に過失(結果発生を予見し、被害結果を発生させないようにするための注意を怠ること)があったかどうかが重要なポイントになります。
過失若しくは重過失がない場合、犯罪は成立しません。
運転状況や被害者の行動・事故現場の状況などから加害者に過失や重過失がなかったと考えられる場合、客観的証拠に基づいてそのことを説得的に主張します。
こうした主張が認められると、不起訴処分や無罪判決の獲得につながります。
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