自動車ドアの開扉と交通事故
~ ケース1 ~
福岡県小郡市に住むAさんは普通乗用自動車を運転していましたが,喉が渇いたため自動販売機でコーヒーを買おうと思い,左ウィンカーを点滅させて,道路左側に車を停車させました。そして,車から降りようと運転席ドアを開けたところ,ちょうど車を右側からよけようとして進行してきたVさん運転の自転車に運転席ドアを衝突させ,Vさんを路上に転倒させてVさんに加療約2週間の怪我を負わせてしまいました。Aさんは,過失運転致傷罪に問われるのでしょうか?
~ ケース2 ~
タクシー運転手のBさんは,客であるCさんを後部座席に乗せて運転していたところ,目的地に着いたためタクシーを道路左側に寄せて停車させました。そして,BさんはCさんから代金を受け取り,Cさんを降車させようと後部座席左側のドアを開扉したところ,タクシーの左側を通過してきたVさん運転の自転車にドアを衝突させ,Vさんを路上に転倒させてVさんに加療約2週間の怪我を負わせました。Bさんは,過失運転致傷罪に問われるのでしょうか?
(いずれもフィクションです)
~ 過失運転致傷罪 ~
= はじめに =
過失運転致傷罪は,
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条
に規定されています。この法律が施行される平成26年5月20日までは,刑法211条2項に同様の規定が設けられ(罪名は「自動車運転過失傷害罪」でした)ていましたが,法律5条が新設されてことに伴い現在は削除されています。
法律5条
自動車の運転上必要な注意を怠り,よって人を死傷させた者は,7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。ただし,その傷害が軽いときは,情状により,その刑を免除することができる。
= 「運転」とは =
「運転」とは,
自動車の運転者が自動車の各種装置を操作し,そのコントロール下において自動車を動かす行為を意味し,発進に始まり停止で終わる
と解されています。
* 自動車ドアの開扉事故 *
ところで,車を停止させて運転席ドアを開けたところ,ドアを自転車を運転してきた人にぶつけて怪我をさせた場合,過失運転致傷罪に問われるのでしょうか?
この点,「運転」を上記のように解釈すれば,ドアを開ける行為は「運転」後の行為ですから「運転」とは言えず過失運転致傷罪には問われないように思えます。ただし,過去には,業務上過失傷害罪(刑法211条)が成立する旨判示した裁判例(平成25年6月11日 東京高等裁判所)があります。
しかし,運転者が車を停止後も車を発進させるつもりだった場合(例えば,タクシーの運転手が同乗者を後部座席から降ろすため一時的に停止し,後部座席ドアを開扉したところ,ドアを自転車を運転してきた人にぶつけて怪我を負わせた場合など)はどうでしょうか?
この場合,走行→停止→再発進という自動車の一連の動きを総合的・全体的に観察すると,一時的に停止したとはいえ,なお「運転」中であったと見ることができるようにも思えます。この場合,タクシー運転手は過失運転致傷罪に問われるおそれが出てきます。
= 「自動車の運転上必要な注意」とは =
「自動車の運転上必要な注意」とは,
自動車の運転者が,自動車の各種装置を操作し,そのコントロール下において自動車を動かすうえで必要とされる注意義務
と解されています。
注意義務の内容は,自動車運転の場合,通常,道路交通法(以下,法)に規定されています。例えば,「赤色信号看過」の場合は,法7条に,
(略)車両等は,信号機の表示する信号(略)に従わなければならない
と規定されており,これが自動車運転者に課される「注意義務」となるのです。にもかかわらず,赤色信号看過した場合は「自動車の運転上必要な注意」(義務)を怠ったということになり「過失」が認められることになります。また,ドアの開扉に関しては,法71条4号の3が根拠となります。
法71条 車両等の運転者は,次に掲げる事項を守らなければならない。
4号の3
安全を確認しないで,ドアを開き,又は車両等から降りないようにし,及びその車両等に乗車している他の者がこれらの行為いより交通の危険を生じさせないようにするため必要な措置を講ずること
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