物損事故と刑事責任 

2019-03-14

物損事故と刑事責任 

福岡県八女市に住むトラック運転手のAさんは,前方道路が工事中で行き止まりとなっていたため道路を右折しました。そうしたところ,Aさんは狭い路地に入りこんでしまいました。Aさんは元来た道に戻ろうと,ハンドルを少しづつ左に切るなどしながらトラックを少しづつ後退させ,いったんトラックを民家の駐車場に停めようとしたところ,民家前に設けられていたブロック塀にトラックを衝突させてブロック塀を壊してしまいました。Aさんは,ブロック塀を壊したことは認識していたものの,「誰もみていないからいいや」などと軽く考え,警察に通報することなしにその場を立ち去りました。しかし,後日,Aさんは道路交通法違反の容疑で福岡県八女警察署から呼び出しを受けてしまいました。
(フィクションです)

~ 物損事故 ~

交通事故の中でも物的な損害が発生した交通事故のことを物損事故,人的な(運転者以外の)損害のみあるいは人的な損害に加えて物的な損害が発生した交通事故のことを人身事故といいます。当初,物損事故として扱われていても,その後相手方から怪我の診断書が提出されるなどして人身事故に切り替わることもあります。

ところで,人身事故を起こした場合は

・過失運転致傷罪(7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金)
・過失運転致死罪(同上)
・危険運転致死傷罪(負傷させた場合:15年以下の懲役,死亡させた場合:1年以上の有期懲役)

などの罪に問われ得ることになります。では,物損事故の場合はどうでしょうか?

~ 物損事故と道路交通法違反 ~

まず,物損事故の場合,相手方に怪我を負わせているわけではありませんから,上記の過失運転致傷罪,過失運転致死罪,危険運転致死傷罪に問われることはありません。しかし,物損事故であっても,道路交通法で規定する次の罪に問われることはあります。

= 過失建造物損壊罪 =

本罪は道路交通法116条に規定されており,車両等の運転者が業務上必要な注意義務を怠り,又は重大な過失により他人の建造物を損壊した場合に成立する罪です。罰則は「6月以下の禁錮又は10万円以下の罰金」です。

「業務」とは,人がその社会的地位に基づき,反復継続して従事する仕事のことをいい,トラックを運転する行為も「業務」に当たるでしょう。ただし,「建造物」とは,家屋その他これに類する建築物をいうとされ,本件のブロック塀はこれに当たらないものと考えられます。よって,Aさんが本罪に問われることはないでしょう。

= 安全運転義務違反 =

運転者の安全運転義務については道路交通法70条,罰則については同法119条1項9号に規定されています。

道路交通法70条
 車両等の運転者は,当該車両等のハンドル,ブレーキその他の装置を確実に操作し,かつ,道路,交通及び当該車両等の状況に応じ,他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。
道路交通法119条1項 次の各号のいずれかに該当する者は,3月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処する。
9号 第70条(安全運転の義務)の規定に違反した者

道路交通法70条は,赤色信号無視やスピード違反といった本条とは別に設けられている規定ではまかないきれない違反行為について規定する「補充規定」といわれています。そのため,その内容は極めて抽象的です。したがって,安全運転義務違反となるどうかは,車両等の運転者の運転状況,道路状況,交通状況,当該車両等の状況などについて具体的に検討した上,総合考慮して判断されるものと思われます。

= 救護措置義務違反,事故報告義務違反 =

物損事故を起こした場合でも,車両を直ちに停止させて,道路における危険を防止する等必要な措置を講じる義務が生じます。これをせずに現場から立ち去った場合は救護措置義務違反(道路交通法117条の5第1号,同法72条1項前段)に問われるおそれがあります。罰則は「1年以下の懲役又は10万円以下の罰金」です。また,警察官に事故内容を報告しなかった場合は事故報告義務違反(道路交通法119条1項10号,同法72条1項後段)に問われるおそれがあります。罰則は「3月以下の懲役又は5万円以下の罰金」です。

物損事故刑事責任についてはお分かりいただけましたでしょうか?
このコラムが,物損事故を起こしお悩みの方のための一助となれば幸いです。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は,物損事故などの交通事故をはじめとする刑事事件・少年事件専門の法律事務所です。物損事故を起こしお困りの方は,まずは0120-631-881で弊所の無料法律相談のご利用をご検討ください。

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