【事例解説】業務上横領罪とその弁護活動(事務局の口座から現金を不正に払い出して横領したケース)

【事例解説】業務上横領罪とその弁護活動(事務局の口座から現金を不正に払い出して横領したケース)

今回は、事務局担当者として経理事務と金銭出納などの業務に従事していた町職員が、事務局の口座から現金約63万円を払い出し横領したというニュース記事に基づいて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説致します。

事例:事務局担当者として経理事務や金銭出納などの業務に従事していた町職員が、事務局の口座から現金約63万円を払い出し横領したケース

松阪署は4日、業務上横領の疑いで明和町、同町職員Aさんを逮捕した。
逮捕容疑は多気郡町村会の令和4年度事務局担当者として町村会経理事務と金銭出納などの業務に従事していた同5年2月28日、同町の金融機関で2回にわたり同事務局口座から払い出した現金合計約63万円を横領した疑い。
Aさんは「私はやっていない」と否認している。
同署によると、令和5年4月の人事異動で新しい担当者が事務を引き継いだ時、使途不明金が見つかったため、同町が同署に同年7月下旬から8月上旬にかけて相談し、10月上旬に告訴、受理された。
同町長職務代理者の下村由美子副町長は「多くの皆さまにご迷惑をおかけしたことをおわびいたします」「捜査に全面協力しますとともに、厳正に対処する」とコメントを出した。
伊勢新聞 3/5(火) 8:00配信のニュース記事を一部変更し引用しています。)

1,業務上横領罪について

〈業務上横領罪〉

業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する。」(刑法253条

業務上横領罪は、通常の横領罪刑法252条1項)を業務者という身分を有する者が犯した場合に成立する犯罪です。
そのため、まずは横領罪について解説致します。
横領罪は、①自己の占有する他人の物を②横領した場合に成立します。
また、横領罪は故意犯であるため③故意刑法38条1項)と、条文上の記載はありませが、④不法領得の意思が必要となります。
横領罪窃盗罪などとは異なり、既に行為者のもとに他人が所有権を有する物が存在しているため、他人の占有を侵害する犯罪ではありません。
そのため、横領罪の保護法益は、第一次的には所有権であり、また、横領行為は物を預けた人に対する裏切り行為といえるため、第二次的には委託信任関係であると考えられています。
①「自己の占有する他人の物」にいう、「物」とは財物を意味し、窃盗罪における財物と同じですが、横領罪の場合は不動産も含まれます。
「占有」とは、処分の濫用のおそれのある支配力を言い、具体的には、物に対して事実上または法律上支配力を有する状態を言います。
法律上の支配とは、法律上自己が容易に他人の物を処分し得る状態を言い、法律上の支配が問題となる場面は不動産の占有と銀行預金の占有です。
不動産の場合は、不動産の所有権の登記名義人は、当該不動産を実際に居住するなど事実上支配していなくても、売却など自由に処分できる立場にあるため、法律上支配していると言えます。
また、他人から預かった金銭を自分の口座で管理している場合は、金銭を自分の財布に入れて実際に管理しているわけではないため事実上支配しているとは言えませんが、その金銭はいつでも自分の口座から引き出すことができ、自由に処分できる立場にあるため、他人の金銭に対する法律上の支配が認められます。
また、その占有は他人からの委託信任関係を原因とすることが必要となります。
仮に、その占有が委託信任関係によらずして開始した場合、その物は誰の占有にも属していないか偶然自分の占有に属したことになり、その場合は遺失物等横領罪刑法254条)が成立します。
そのため、横領罪における占有は他人からの委託信任関係が必要となります。
委託信任関係委任民法643条以下)などの契約に基づく場合のほか、取引上の信義則に基づく場合などがあります。
②「横領」とは、不法領得の意思を発現する一切の行為を言います。
横領罪における不法領得の意思とは、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに、その物の経済的用法に従って、所有者でなければできないような処分をする意思を言います。
横領行為は、費消、着服、拐帯などの事実行為のみならず、売却、貸与、贈与などの法律行為も含まれます。
以上が横領罪の成立に必要な要件となり、業務上横領罪は、業務者という身分を有する者が横領行為を行った場合に成立します。
業務者とは、委託を受けて他人の物を保管・管理する事務を反復又は継続的に行う者を言い、質屋や運送業者などがその典型ではありますが、職務上公金を管理する公務員や会社や団体などの金銭を管理する会社員や団体役員なども業務者に含まれます。

2,業務上横領罪で逮捕・勾留による身柄拘束を受けた場合における弁護活動

業務上横領罪で逮捕・勾留された場合、最長で23日間 、身柄を拘束されて警察と検察の取調べを受けることになります。
その後、検察官によって起訴されるか否かが判断され、起訴されてしまった場合には公判が開かれることになります。
窃盗罪などの他の財産犯に比べて、業務上横領罪未遂犯を処罰する規定が存在しないため、業務上横領罪に当たる行為を行った時点で結果が発生していなくとも既遂となります。
未遂犯は既遂犯に比べて刑罰を減軽される可能性がありますが(刑法43条本文)、業務上横領罪はすべて既遂として処罰されることになります。
また、横領行為は信頼して預けていた財物に手を出すという信頼を失墜させる行為であること、「業務上」という反復継続して行う立場でありながら犯行に及んだという点で非難の度合いが高く、起訴されてしまった場合には実刑判決を受ける可能性が高いと言えます。
業務上横領罪の刑罰は10年以下の懲役刑のみであるところ、執行猶予付き判決を獲得するためには、判決によって言い渡される刑罰が懲役又は禁錮3年以下である必要があります(刑法25条柱書)。
そのため、業務上横領罪で逮捕・勾留された場合、それに引き続いて起訴されてしまった場合いは、弁護士による迅速なサポートを受けることが重要となります。
まず、勾留による身柄拘束が認められるのは、被疑者・被告人に証拠隠滅または逃亡のおそれがあると判断された場合です。(刑事訴訟法207条1項本文60条1項各号
そこで、弁護士はそれらの事情を否定し得る客観的な事情や証拠を収集する活動を通じて早期の身柄解放を行います。
具体的な活動の一例としては、被疑者・被告人の家族や親族に働きかけて身元引受人となってもらい、被疑者・被告人の裁判所や捜査機関への出頭の機会を確保することができれば、逃亡のおそれを否定し得る客観的な事情となり、早期の身柄解放が期待できます。

次に、業務上横領罪は被害者が存在する犯罪でもあります。
そのため、弁護士が被疑者・被告人に代わって被害者との示談交渉を行い、示談の成立に向けた活動を行います。
示談と一口に言っても内容は種々様々で、加害者側にだけ都合のいい内容で示談交渉を進めると交渉が拗れてしまい、示談が成立する可能性は低くなります。
そのため、被害者側の意向をくみ取りつつ、宥恕条項(加害者側の謝罪を受け入れて、加害者の刑事処罰を望まないことを意味する条項)や刑事告訴取消といった約定を入れた内容で示談交渉を進める必要があります。
また、身柄を拘束されている事件では、逮捕から起訴までの間 に示談を成立させることができれば、証拠隠滅や逃亡のおそれが低いと判断され早期の身柄拘束が、起訴猶予による不起訴処分の獲得がそれぞれ期待できます。
そのため、身柄を拘束されてしまった場合には、短い期間で示談交渉を行い必要があるため、速やかな示談交渉が必要不可欠となります。
もし起訴されてしまった場合でも、示談が成立していれば、執行猶予付き判決を獲得できる可能性が高まるため、示談交渉の成立に向けた弁護活動が重要であることに変わりはありません。
以上より、業務上横領罪など逮捕・勾留により身柄を拘束されてしまった場合には、少しでも早く弁護士に依頼することがとても重要と言えます。

3,まずは弁護士に相談を

福岡県内で業務上横領罪の当事者となってしまった方、もしくは家族・親族が当事者となってしまった方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部にぜひ一度ご相談ください。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部には、刑事弁護の経験・実績が豊富で刑事事件に特化した弁護士が在籍しており、業務上横領罪で在宅捜査を受けている方に対しては初回無料でご利用いただける法律相談を、家族・親族が当事者となってしまった方に対しては初回接見サービス(有料)を、それぞれご提供しております。
お気軽にご相談ください。

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