1. 刑事訴訟法等の改正
度重なる冤罪事件への反省を踏まえて、時代に即した刑事司法制度を構築するために刑事訴訟法等が改正される運びとなりました。
冤罪の主な原因としては、取調室での過度な取調べにより「自白」調書が作成され、これがもととなって裁判所で有罪判決を下されることが挙げられます。
そこで、取調べ及び自白調書への過度な依存からの脱却を図り、「証拠収集手段の適正化・多様化」及び「充実した公判審理の実現」を実現すべく刑事訴訟法及び関係法令の改正がなされます。
刑事訴訟法及び関係法令について主な改正点は下記になります。
(1) 平成28年6月23日施行の改正
① 裁量保釈判断にあたっての考慮事情の明文化
これまでは、裁量保釈(裁判所の職権による保釈)の考慮事情が明記されていませんでしたが、身体拘束解放活動の指針とすべくこれまでの実務の運用を明文化しました。
具体的には、「保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪障を隠滅するおそれの程度のほか、身体の告訴の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し」と明記されました。
② 証拠隠滅等の罪の法定刑の引上げ
公判廷に提出される証拠の真正担保を図るべく証拠を隠したりした場合には従来よりも重く処罰されることとなりました。
・証人不出頭(刑事訴訟法151条)、宣誓証言拒絶(同161条)
⇒1年以下の懲役又は30万円以下の罰金
・犯人蔵匿等(刑法103条)、証拠隠滅等(104条)
⇒3年以下の懲役又は30万円以下の罰金
・証人等威迫(2年以下の懲役又は30万円以下の罰金)
⇒2年以下の懲役又は30万円以下の罰金
・組織的な犯罪に係る犯人蔵匿、証拠隠滅、証人威迫等の罪
(組織犯罪処罰法7条1項1号~3号)
⇒5年以下の懲役又は50万円以下の罰金
(2) 平成28年12月までに施行の改正
① 弁護人による援助の充実化
弁護人の選任にかかる事項の教示義務が強化されました。
司法警察員・検察官・裁判官等は、身体を拘束されている被疑者・被告人に弁護人選任権を告知するにあたり、弁護士・弁護士法人・弁護士会を指定して選任を申出ることができる旨及び申出先(刑事施設の長等)を教示しなければなりません。
② 通信傍受の合理化・効率化
従来は「銃器犯罪、薬物犯罪、集団密航、組織的殺人の4罪種の傍受令状の発付を認めていましたが、「証拠収集手段の適正化・多様化」の観点より、以下の犯罪が追加されました(改正通信傍受法第3条、第14条、別表第二)。
・現住建造物等放火関係
・殺傷犯等関係
・逮捕・監禁・略取・誘拐関係
・窃盗・強盗関係
・詐欺・恐喝関係
・爆発物の使用関係
・児童ポルノ関係
なお、新しく加えられた犯罪の傍受令状の発付には、従来の要件である「数人の共謀」と「補充性」の要件のほかに、当該犯罪が「あらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体により行われるものに限る」という組織要件が加わりました。
しかし、些細な共犯事件でもこの要件を満たし、傍受令状が安易に発付される可能性が懸念されています。
③ 証人の指名・住居開示に係る措置及び公判廷における証人の指名等の秘匿措置
検察官が証人等の氏名及び住居を知る機会を与えるべき場合等において、
・その証人等又はその親族に対し、身体・財産への加害行為又は畏怖・困惑行為がなされるおそれがあるときは、弁護人には氏名・住居を知る機会を与えた上で、これを被告人には知らせてはならない旨の条件が付されました。
また、
・前期の行為を防止できないおそれがあると認めるとき、その証人等の氏名又は住居を知る機会を与えないで、これらに代わる呼称及び連絡先を知る機会を与える措置が導入されました。
④ 公判廷での証人の氏名等の秘匿措置
裁判所は、一定の場合に、証人等から申出があるときは、検察官及び被告人または弁護人の意見を聴き、相当と認めるときは、証人等特定事故(氏名及び住所その他)を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることができます。
(3) 平成30年6月までに施行
① 被疑者国選弁護制度を全勾留事件に拡大
現在は、「死刑又は向き若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件について被疑者に対して勾留状が発せられている場合」において対象事件となりますが、「被疑者に対して勾留状が発せられている場合」すべてに拡大されます。
② 捜査・公判協力型協議・合意制度
これは、一般手にいわれるところの「司法取引」です。
司法取引には2種類あり、1つは、自分の罪を認めるのと引換え、国家が恩恵を与える(例えば不起訴等)ものです(自己負罪型)。
もう1つは、被疑者・被告人が、共犯者等の他人の犯罪事実の捜査や訴追に協力することと引換えに、弁護人の同意のもと検察官が恩典を付与することを合意するものです(捜査・公判協力型)。
今回の刑事訴訟の改正では、後半の捜査・公判協力型が規定されました。
検察官が、特定の犯罪について、弁護人の同意を条件に、被疑者・被告人との間で、被疑者・被告人が他人の犯罪事実を明らかにするための供述等をし、検察官が不起訴や特定の求刑等をする旨の合意ができることとなりました。
但し、すべての事件に適用されるのではなく、薬物銃器犯罪を中心とした組織犯罪として行われる可能性の高い犯罪と、財政経済犯罪(いわゆる租税法、独禁法又は金融商品取引法)に限定されています(但し、今後、拡大の可能性があります)。
③ 刑事免責制度
刑事訴訟法146条で「何人も、自己が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受ける虞のある証言を拒むことができる」として保障された証言拒絶権を、その証人の刑事事件についてその証言及び当該証言から派生して得られた証拠の使用を禁止することと引き換えに、はく奪する制度です。
なお、対象事件は限定されていません。
検察官が、証人が刑事訴追を受け、または有罪判決を受けるおそれのある事項についての尋問を予定している場合であって、当該事項についての証言の重要性、関係する犯罪の軽重及び情状その他の事情を考慮し、必要と認めるときは、あらかじめ裁判所に対し、当該証人尋問を次に掲げる条件により請求できます。
・尋問に応じてした供述及びこれに基づいて得られた証拠は、原則として、証人の刑事事件において、これらを証人に不利益な証拠とすることができないこと
・自己が刑事訴追又は有罪判決を受けるおそれのある証言を拒否することができないこと
(4) 平成31年6月までに施行
① 取調べの全過程の録音録画制度の導入
1.裁判員裁判対象事件及び検察独自捜査事件で身体拘束中の被疑者取調べについては録音・録画義務を認め、機器の故障や被疑者による拒否など一定の例外事由を除き、全過程の録音・録画が行われます。
2.検察官は、対象事件に係る被疑者調書として作成された被告人の供述調書の任意性が争われたときは、当該調書が作成された取調べ等における被告人の供述及びその状況を録音・録画した記録媒体の証拠調べを請求しなければなりません。
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2. その他の「犯罪」の説明
(1)コンピュータやインターネットに関する犯罪
①電子計算機損壊等業務妨害罪(234条の2第1項)
現代では、コンピュータを使って業務が行われることがほとんどです。
そこで、本罪は,コンピュータに対する加害行為を手段とするものを業務妨害罪の一類型とするとともに、偽計・威力業務妨害罪よりも重く処罰しています(5年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する)。
②不正アクセス禁止法
他人のコンピュータに直接あるいはネットワークを通じて、他人のID番号やパスワードなどを利用して他人になりすまして、あるいは、コンピュータの弱点(セキュリティホール)をついて不正にアクセスし、他人のコンピュータを利用できる状態にする行為を禁止する規定です(1年以下の懲役または50万円以下の罰金)。
③不正指令電磁的記録に関する罪(刑法168条の2第1項)
「正当な理由がないのに」「人の電子計算機における実行の用に供する目的で」コンピュータウイルスを作成、提供する行為および「正当な理由がないのに」コンピュータウイルスを人の電子計算機における実行の用に供する行為が処罰されます(3年以下の懲役または50万円以下の罰金)。
なお、「正当な理由がないのに」「人の電子計算機における実行の用に供する目的」で行われるコンピュータウイルス等の取得行為(コンピュータウイルス等であることを知ったうえで、これを自己の支配下に移す一切の行為)、保管行為(コンピュータウイルス等を自己の実力支配内に置いておくこと)も処罰されます(2年以下の懲役又は30万円以下の罰金)。
④電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)
コンピュータを使用して虚偽のデータを作成したり、虚偽のデータを使用して不正な処理を行ったりした場合に処罰される犯罪です(10年以下の懲役)。
例えば、ATM機により他人の預金を自己の口座に振替送金する行為が挙げられます。
⑤支払用カード電磁的記録に関する罪(163条の2)
クレジットカードのスキミングをしてカード情報を取得した場合に支払用カード電磁的記録不正作出準備罪が成立します(10年以下の懲役又は100万円以下の罰金)。
なお、スキミングをしなくとも、スキミングに使用するスキマーや不正なカード作成の原材料を用意した場合も処罰されます(3年以下の懲役又は50万円以下の罰金)。
また、人の財産上の事務処理を誤らせる目的で、不正に作られた電磁的記録を構成部分とするクレジットカードその他の代金・料金支払用のカードまたは預貯金の引出用カードを所持した場合にも処罰されます(5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する)。
つまり、不正に作られた支払用カードの場合には、これを(人の財産上の事務処理を誤らせる目的で)所持するだけで、本罪が成立し処罰されます
⑥電磁的記録不正作出罪(刑法161条の2)
人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利・義務・事実証明に関する電磁的記録を不正に作った場合に成立罪する罪です(5年以下の懲役又は50万円以下の罰金)。
(2)その他、刑法犯
① 騒乱罪
多衆で集合して暴行又は脅迫をした者は、騒乱の罪とし、次の区分に従って処断されます。
1. 首謀者
⇒1年以上10年以下の懲役又は禁錮
2. 他人を指揮し、又は他人に率先して勢いを助けた者
⇒6月以上7年以下の懲役又は禁錮
3. 不和随行した者
⇒10万円以下の罰金
② 多衆不解散罪
暴行又は脅迫をするため多衆が集合した場合において、権限のある公務員から解散の命令を3回以上受けたにもかかわらず、なお解散しなかったときは、首謀者は3年以下の懲役又は禁錮に処し、その他の者は10万円以下の罰金に処せられます。
③ 往来危険罪
鉄道若しくはその標識を損壊し、又はその他の方法により、汽車又は電車の往来の危険を生じさせた者は、2年以上の有期懲役に処せられます。
また、この罪を犯し、よって汽車若しくは電車を転覆させ、若しくは破壊し、又は艦船を転覆させ、沈没させ、若しくは破壊した者は3年以上の懲役に処せられます。
さらに、その結果として人を死亡させた場合には、死刑又は無期懲役に処せられます。
④ 虚偽告訴罪
人に刑事又は懲戒処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした者は、3月以上10年以下の懲役に処せられます。
⑤ 重婚罪
配偶者のある者が重ねて婚姻をしたときは、2年以下の懲役に処せられます。
その相手方となって婚姻をした者も同様です。
⑥ 賭博罪
賭博をした者は、50万円以下の罰金または科料に処せられます。
ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りではありません。
⑦ 死体損壊等罪
姿態、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、3年以下の懲役に処せられます。
⑧ 特別公務員暴行陵虐罪
裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者が、その職務を行うに当たり、被告人、被疑者その他の者に対して暴行又は陵虐若しくは加虐の行為をしたときは、7年以下の懲役又は禁錮に処せられます。
法令により拘禁された者を監守し又は護送する者がその拘禁された者に対して暴行又は陵虐若しくは加虐の行為をしたときも、同様です。
刑務所で収容されている方へ刑務官が暴行した場合には、この罪が問題となります。
⑨ 未成年者略取及び誘拐罪等
未成年者を略取し、又は誘拐した者は、3月以上7年以下の懲役に処せられます。
また、営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、1年以上10年以下の懲役に処せられます。
更に、近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させる目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、無期または3年以上の懲役に処せられます。
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