公妨,公文書毀棄と釈放
Aさんは自動車をを運転中,非常点滅表示灯が点滅していなかったことから,パトカーを運転する福岡県久留米警察署の警察官に停止を求められました。Aさんは道路わきに車を止め,車から降りて警察官の職務質問を受けました。Aさんは,素直に罪を認め,はやく手続を終わらせたいと考えていましたが,警察官の態度があまりにも横柄すぎると感じたことから,警察官Aから交付を受けた「交通反則切符」をその場で破り捨てました。そこで,Aさんは公務執行妨害罪,公文書毀棄罪で逮捕されてしまいました。Aさんは,妻と二人で痴ほう症の両親の面倒を看ています。そこで,逮捕の連絡を受けたAさんの妻は,一刻も早く釈放されることを願って刑事事件に強い弁護士に弁護活動を依頼しました。
(フィクションです。)
~ 逮捕罪名について ~
まずは,Aさんの逮捕罪名である公務執行妨害罪,公文書毀棄罪から解説したいと思います。
= 公務執行妨害罪 =
本罪は,刑法95条1項に規定されています。
刑法95条1項
公務員が職務を執行するに当たり,これに対して暴行又は脅迫を加えた者は,3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
* 破っただけで公妨? *
この記事をご覧になった方は,
・警察かに暴行,脅迫を加えてないのになぜ逮捕?
・切符破っただけで公妨?
などと疑問を持たれた方も多いのではないでしょうか?実は,公務執行妨害罪の「暴行」とは,
公務員の身体に対して直接加えられる有形力の行使(直接暴行)に限られず,公務員に対して向けられてはいるものの,直接公務員の身体に対して加えられたものではない有形力の行使(間接暴行)をも含む
とされています。これは公務執行妨害罪が公務の円滑な遂行を保護することを目的としているからと説明されています。判例では,
・覚せい剤液注射液入りアンプルを足で踏み付け破壊する行為
・収税官吏が差し押さえた密造酒入りのカメを破壊する行為
なども「暴行」に当たるとされています。
= 公文書毀棄罪 =
本罪は,刑法258条に規定されています。
刑法258条
公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀棄した者は,3月以上7年以下の懲役に処する。
「公務所」とは,官公庁その他公務員が職務を行う所をいいます。「公務所の用に供する文書(公用文書)」とは,公務所で使用されるための文書をいいます。過去の裁判例(東京高裁昭和41年11月11日)では,交通切符をも「公用文書」に当たると判断されています。なお,犯人が署名する前など,文書として未完成のものであっても「公用文書」であることに変わりはないとされています。「毀棄」とは,共用文書等の本来の効用を害する一切の行為をいうとされています。破り捨てる行為も「毀棄」に当たるでしょう。
~ 本件と釈放 ~
本件の場合,犯罪を立証し得る直接証拠は犯行を現認した警察官Aの供述です。しかし,Aさんが釈放された場合,わざわざ警察署まで出向いて警察官Aを威迫し,自分に有利に供述を変遷させるなどの罪証隠滅行為に出ることは通常考え難いです。そもそも,Aさんとしては,警察官Aの特定すらできないかもしれません。よって,本件の場合,罪証隠滅行為の現実的可能性は他の犯罪に比べ低いです。ですから,本罪では逃亡のおそれさえなくしてしまえば釈放される可能性はグンと高まります。
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