殺人事件と取調べ
福岡県京都郡苅田町に住むAさんは,自宅内で,妻であるVさんの腕や顔を包丁で切り付けた上,その腹部を刺し,Vさんを死亡させた殺人罪で福岡県行橋警察署に逮捕されました。勾留後,接見した弁護士は,Aさんの様子を見て違法・不当な取調べが行われているのではないかと,取調べに対して強い懸念を抱いています。
(フィクションです)
~ 取調べに関する最近の流れ ~
報道によれば,政府は,4月16日,一部の事件の全過程について,取調べの可視化の義務化を6月1日から始めることを閣議決定したとのことです。これによって,今までとどう変わるのか,何が変わるのか,についてご紹介していきたいと思います。
* 取調べの可視化とは *
取調べの可視化とは,弁護人の取調べへの立会権を認めることや,取調べ状況をすべて録音・録画することをいいます。現時点(平成31年4月22日)では,弁護人の取調べへの立会権や取調べの録音・録画を許容する明文の規定はありません。しかし,録音・録画については,以下でみるとおり,捜査機関の内部の通達などで,一定の範囲の事件に限って実施されています。
* なぜ,取調べの可視化が必要なの? *
密室で行われていた取調べが第三者によって検証できるようにオープンになります。その結果,取調官の違法・不当な取調べに対する抑止が期待できます。これに伴い,取調べで認められている各種権利(黙秘権,増減変更申立権,署名・押印拒否権)も適切に行使できることが期待できます。また,被疑者・被告人が任意に供述(話)をしたかなどを事後的に検証しやすくなります。
~ 現在の対象事件 ~
現在,捜査機関(警察,検察)では,どんな事件(対象事件)を録音・録画の対象としているのでしょうか?
= 警察における対象事件 =
1 基本的に実施する事件
① 死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件(殺人罪,強盗殺人罪,強盗致死罪,現住建造物放火罪 など)
② 短期1年以上の有期の懲役又は禁錮に当たる罪であって故意の犯罪行為により被害者を死亡させたものに係る事件(危険運転致死罪など)
2 試行対象事件
③ 知的障害,発達障害,精神障害等の被疑者にかかる事件
※①,②は裁判員裁判対象事件とも呼ばれます
= 検察における対象事件 =
1 基本的に実施する事件
① 死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件
② 短期1年以上の有期の懲役又は禁錮に当たる罪であって故意の犯罪行為により被害者を死亡させたものに係る事件
③ 検察官独自捜査事件
④ 知的障害によりコミュニケーション能力に問題がある被疑者等に係る事件
2 試行対象事件
⑤ 公判請求が見込まれる身柄事件であって,事案の内容や証拠関係等に照らし被疑者の供述が立証上重要であるもの,証拠関係や供述状況等に照らし被疑者の取調べ増強をめぐって争いが生じる可能性があるものなど,被疑者の取調べを録音・録画することが必要であると考えられる事件
⑥ 公判請求が見込まれる身柄事件であって,被害者・参考人の供述が立証の中核となることが見込まれるなどの個々の事情により、被害者・参考人の取調べを録音・録画することが必要であると考えられる事件
※⑥については参考人も対象とされていることが特徴です。
~ 取調べに関する改正法の内容 ~
改正法における対象事件は
① 裁判員裁判対象事件
② 検察官独自捜査事件
です。まず,法律(刑事訴訟法)で取調べの録音・録画が明文化されたことが特徴です。なお,これまでの運用より,対象事件の範囲が狭くなったと思いますが,対象外の事件については,引き続き通達などで運用されていくものと思われます。また,録音・録画が明文化されたといっても,割合としては全事件の数%程度だと思います。
弁護人としては,引き続き,対象事件以外の事件についても録音・録画を実施するよう捜査機関に申入れを行っていく必要があります。
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