覚せい剤営利目的輸入罪と関税法違反①
ドイツ国籍を有するAさんは,中国上海市において,氏名不詳者から紙箱等が入った茶色ソフトケースを日本へ運ぶことを依頼されてこれを引受けました。そして,Aさんは,受け取った同スーツケース内の紙箱に覚せい剤などの違法薬物が隠されているかもしれないと認識しつつ,営利の目的で,これを本邦に輸入しようと企てました。Aさんは,上海空港において,同スーツケースを機内預託手荷物として福岡空港行きの航空機に搭乗しました。その後,Aさんは福岡空港で航空機を降りた後,同空港内の税関検査場において手荷物検査を受けていたところ,同スーツケースの紙箱内から覚せい剤約5000グラムを発見されてしまいました。そこで,Aさんは,福岡空港警察署の警察官に,覚せい剤取締法違反(営利目的輸入罪)及び関税法違反(禁制品輸入未遂罪)で逮捕されてしまいました。
(フィクションです)
~ はじめに ~
今回は,覚せい剤密輸事件に関するコラムです。覚せい剤密輸の大半が航空機を利用して行われていると言われています。そして,国際都市福岡市には福岡空港があります。また,福岡空港の年間乗降客数は年々増加しており,平成27年は約2097万人だったそうです(福岡県経済観光文化局空港対策課)。このことからすれば,福岡空港も覚せい剤をはじめとする薬物の密輸事件とは無縁ではありません。
~ 覚せい剤取締法(営利目的輸入の罪) ~
覚せい剤の営利目的輸入の罪は,覚せい剤取締法41条2項に規定されています。
41条2項
営利の目的で前項の罪を犯した者は,無期若しくは3年以上の懲役に処し,又は情状により無期若しくは3年以上の懲役及び1000万円以下の罰金に処する。
= 営利の目的 =
営利の目的とは,犯人が自ら財産上の利益を得,又は第三者に得させることを動機,目的とする場合をいいます。
営利目的の存否は,犯人の主観にかかわるものですから,これを裏付ける証拠は犯人の自白しかありません。そこで,自白がない場合は,覚せい剤の数量,価格,犯行の手口,態様のほか,犯人が犯罪行為に高額の資金を出捐していること,犯人が犯罪行為を近接した時期に同種薬物を販売していた事実があること,小分け道具等の薬物の密売に用いられる器具等を所持していたことなどの間接証拠(情況)を総合的に勘案して判断されるものと思われます。
= 前項の罪 =
前項とは41条1項のことをいいます。同項は,覚せい剤の輸入,輸出,製造の罪を定めた規定です。
* 輸入の意義と既遂時期 *
一般的に輸入とは,国外から国内へ物品を搬入することをいうと思われますが,41条1項は外国への輸入も処罰の対象としています。そして,輸入の既遂時期について最高裁(昭和58年9月29日)は,「税関空港に着陸した航空機から覚せい剤を取り下ろすことによって既遂となる」(陸揚げ説)と判示しています。なお,覚せい剤の輸入,輸出,製造の罪は,所持,譲り渡し,譲り受けと同様,未遂罪も設けられています。
~ 関税法(禁制品輸入未遂罪) ~
関税法69条の11条1項1号では,覚せい剤などの薬物を輸入してはならない旨定め,同法109条1国で,覚せい剤などを輸入した者は,10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し,又はこれらを併科すると定めています。なお,関税法の輸入の既遂は「覚せい剤を携帯して通関線を突破したとき」と解されいます。したがって,事例のAさんの態様で,本邦に薬物を持ち込んだときは,覚せい剤取締法については既遂罪,関税法違反については未遂罪となります。
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(福岡空港警察署までの初回接見費用:34,500円)