スピード違反で逮捕
会社員のAさんは,福岡県朝倉郡筑前町の一般市道で,指定速度(40キロメートル)を60キロメートル超える時速100キロメートルで普通乗用自動車を運転していました。そうしたところ,Aさんは,一般市道でスピード違反の取り締まりを実施していた朝倉警察署の警察官に検挙され,道路交通法違反(速度違反の罪)で逮捕されてしまいました。逮捕の連絡を受けたAさんの家族は驚き,まずは,刑事事件に強い弁護士にAさんとの接見を依頼しました。
(フィクションです)
~ 道路交通法違反(速度違反の罪)~
速度違反の罪といっても2種類あります。一つは指定最高速度違反の罪,もう一つは法定最高速度違反の罪です。Aさんは前者の罪で検挙されたようです。
= 指定最高速度違反が成立する場合 =
指定最高速度違反の故意犯が成立するには,
①当該日時に,公安委員会によって適式な道路標識等による最高速度の指定がなされていること
②指定最高速度を超えて走行したこと
に加えて,運転者が上記①,②を認識していることが必要です。故意による速度違反の罪の罰則は「6月以下の懲役又は10万円以下の罰金」です(道路交通法118条1項1号)。
* 過失による速度違反の罪 *
仮に,運転者に①,②につき認識がないと認められる場合は,過失による速度違反の罪に問われることになります。罰則は「3月以下の禁錮又は10万円以下の罰金」です(道路交通法118条2項)。
* 速度違反の罪を錯誤 *
本件道路のように,法定最高速度(60キロメートル)を下回る最高速度指定(40キロメートル)がなされている道路において,Aさんが最高速度の道路標識を看過して(つまり,上記①の認識がなく),法定最高速度(60キロメートル)を超える速度(100キロメートル)で運転した場合の罪責はどうなるのでしょうか?
この点については,次の3つの考え方があります。
ア 法定最高速度違反の故意犯が成立
イ 指定最高速度違反の過失犯が成立
ウ 指定最高速度違反の故意犯が成立
裁判例の多くはウ説を採っています。
= 法定最高速度違反が成立する場合 =
法定最高速度違反が成立するのは,
・当該区域,区間等において公安委員会による速度指定がなされていないこと
・当該車両について定められている法定最高速度を超えて進行したこと
が必要です。なお,法定最高速度を知らなかったといっても,それは理由とはならず,速度違反の故意を阻却する(故意がなかった)ものではありません。法定最高速度違反の場合の罰則も指定最高速度違反の罰則と同じです。
~ 検挙されたその後 ~
速度違反の場合,一般道なら30キロ未満,高速道なら40キロ未満の速度超過であれば,交通反則通告制度(青切符)によって処理されます。それ以上を超過すると,通常の刑事手続(赤切符)で処理されます。
Aさんは,後者の手続で処理されたようです。あまりにも悪質,逃亡のおそれがある場合などはその場で逮捕されることもあります。また,すでにご紹介したように,速度違反の罪についても懲役刑が規定されていますから,起訴されれば正式裁判を受けなければならない場合もあります。初犯であれば執行猶予が付く可能性が高いと思われますが,執行猶予期間中である場合,常習性が認められ悪質な場合などは実刑となる可能性もないわけではありません。
* 交通反則通告制度 *
この制度は,数ある交通違反の中でも比較的軽微な交通違反を「反則行為」とし,ある一定の場合を除いて,「反則行為」をした者を「反則者」として(道路交通法125条1項,2項),反則者に反則金(罰金ではない)を科す制度です。あくまで刑罰に先行する行政上の措置です。ですから,反則金を納付すれば,交通違反(反則行為)の件が検察庁へ送致されることはなく,検察官の起訴(公訴提起)を受け,刑事裁判にかけられることもありません。また,反則金を納付したからといって前科は付きません。
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