【事例解説】傷害事件における「同時傷害の特例」の適用と弁護活動(遭遇した暴行現場に乗じた架空の事例に基づく解説)

 共犯関係によらずに同時に加えられた暴行により発生した架空の傷害事件を参考に、傷害罪における「同時傷害の特例」の適用とその弁護活動について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部が解説します。

参考事件

 福岡市内在住の男性Aは、帰宅途中に、以前トラブルが起きた知人のVが、Bに暴行されている現場に遭遇しました。Bが現場を立ち去った後、AはVへの恨みから、路上に倒れ込んでいるVの顔面を1回足蹴し、立ち去りました。
 なお、AとBに面識はなく、共同してVに暴行するという意思の疎通はありませんでした。
 Vは、一連の暴行により、鼻骨骨折と肋骨骨折の怪我を負い、Aは、後日、Vに対する傷害の容疑で逮捕されました。
(事例はフィクションです。)

傷害罪における「同時傷害の特例」とは

 本件で、AとBに共同してVに暴行するという意思の疎通は認められないため、「二人以上共同して犯罪を実行した」として共犯(刑法第60条)が成立する可能性は低いと考えられます。
 この場合、Aの暴行(顔面の足蹴)がVの傷害(鼻骨骨折と肋骨骨折)に寄与したという、個別の因果関係が証明されなければ、「疑わしきは被告人の利益に」の原則により、Aに傷害罪が成立しないとも考えられそうです。

 しかしながら、こうした傷害事件においては、個々の暴行と傷害の因果関係の証明が一般的に容易でないことから、暴行を加えた者全員に傷害罪が成立しないという不合理な結論を回避するため、刑法207条で、2人以上で暴行を加えて人を傷害した場合において、それぞれの暴行による傷害の軽重を知ることができず、又はその傷害を生じさせた者を知ることができないときは、共同して実行した者でなくとも、共犯の例による、と規定されています。
 これを「同時傷害の特例」と呼び、この特例が適用されると、Aの暴行とVの傷害の個別の因果関係の証明がなくとも、AにVに対する傷害罪が成立し得ることとなります。

「同時傷害の特例」が適用され得る傷害事件の弁護活動

 「同時傷害の特例」は、あくまで、個別の因果関係を推定する規定とされるため、自身の暴行が特定の傷害の発生に寄与していないとして、個別の因果関係がないことを立証し、推定を覆すことができれば、特定の傷害に対する傷害罪の責任を回避することが可能であると考えられます。

 また、判例によると、「同時傷害の特例」の適用の前提として、各人の暴行が特定の傷害を生じさせ得る危険性を有することが必要とされるため、例えば、暴行を加えた部位と全く異なる部位に生じた傷害については、そもそも特例の適用の前提を欠くと判断されることもあり得ます。

 そのため、本件で、Vの肋骨骨折の傷害については、Aの暴行(顔面の足蹴)が当該傷害を生じさせ得る危険性を有しない、又は発生に寄与していないとして、「同時傷害の特例」の適用や因果関係を争う余地があると考えられます。

 傷害罪の法定刑は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金と幅があり、負わせた傷害の程度が量刑に大きく影響し得ると考えられるため、本件で、鼻骨骨折での傷害罪の責任は争い難い場合であっても、肋骨骨折での傷害罪の責任を回避できれば、その分量刑を軽減できる可能性があります。

 このような事件では、同時に暴行を行った者が、自らの責任を軽くするため、暴行の態様について虚偽の供述をする可能性もあることから、不当に重い責任を負わされることのないよう、弁護士が被疑者との接見に際し、取調べ対応についてアドバイスを行うことが重要になると考えられます。

福岡県の刑事事件に関するご相談は

 弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は刑事事件に強く、傷害事件において、不起訴処分や刑の減軽を獲得している実績が数多くあります。
 傷害事件でご家族が逮捕されるなどしてご不安をお抱えの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所福岡支部へご相談ください。

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